「新幹線グリーン車のフットレストに見る ― “平均最適化”から“多様性対応”へ進化すべき公共デザイン」

新幹線グリーン車のフットレストに見る ― “平均最適化”から“多様性対応”へ進化すべき公共デザイン
航空機のシート(ビジネスクラスなど)、新幹線のグリーン車、長距離バスに乗るとたびに思う「日本の公共交通のデザインは、本当に細部までよく作り込まれている」と。座席表皮の質感、金属フレームの仕上げ、テーブルの配置や大きさ、コップの滑り防止、収納性、リクライニング、足元に配置されたフットレストに至るまで、全体として非常に落ち着いた上質さ色合い、静音性、ライティングなどが、非常にうまく演出されている。まさに、日本のプロダクトが得意とする「かゆいところに手が届く」「控えめな機能美」そのものだ。
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しかし最近、このフットレストをじっくり観察し、使ってみた際に、設計者として気になる点があった。
それは、この装置が“平均的な日本人”には快適でも、体格が大きい人にとっては時に“不要どころか邪魔になると感じる“可能性”があるということだ。
現状のフットレストは、角度調整こそ可能だが、存在そのものを消すことはできない。つまり、大柄な人や脚の長い人にとっては足元スペースが狭まり、脚を余らしてしまう。運用上の耐久性やメンテナンス性、軽量化などの制約を考えれば理解はできるが、インバウンドが増え続ける今、この「固定式」という構造そのものが課題になってきているのではないだろうか。
設計の現場では、人間工学の指標として「パーセンタイル(○◯%タイル)」を用いる。たとえば“95%タイル”とは、95%の人が快適に使える寸法を目標にする考え方だ。新幹線のフットレストも、おそらく日本人の標準体型データを基準に、この範囲で最適化されてきたはずである。
ただし、世界では事情が違う。平均身長180cm超の人は珍しくなく、脚長比も大きい。日本の“95%タイル”は、世界から見れば“50%”にも満たない可能性がある。いまや新幹線は国際的な公共空間なのだから、従来の「国内最適」では対応しきれない部分が出てきている。
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ここで注目したいのが、航空機のビジネスクラスなどで採用されている収納式・可変型レッグレストの仕組みだ。必要な人は出して使い、不要な人は完全に収納することで足元スペースを最大化できる。
可動部が増えればコスト・重量・整備性の問題が出るのは当然だが、「選べる余地を作る」という発想は、これからの公共デザインに必須の考え方だと私は感じている。
プロダクト設計において、すべての人にフィットする形状は存在しない。だからこそ、“平均で固定する”のではなく、“多様性を許容する構造にする”という方向性が重要になる。小柄な人、大柄な人、子ども、車椅子利用者、そして世界から訪れる旅行者——人々の体格・文化・使用環境はますます多様化している。
今回のフットレストの事例は、単なる座席装置の話ではない。公共デザインが、これからどの方向へ進むべきかを示す良いヒントだと感じている。
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そしてこれは、SK TechPlanとして関わる製品設計や機構設計、エルゴノミクスを考える際にも大いに示唆を与えてくれる。
“ユーザーが異なれば最適解も異なる”
だからこそ、設計側が解決すべきは「全員に同じ形を押しつけること」ではなく、できる限り「使う側が選択できる余地を提供すること」であろう。設計の妥協点を使う側に近づけることが大事になっていくのではなかろうか。
公共設備・機器のデザインは、日常の中でこそ学びが多い。これからも、気づきや発見を“開発ヒント”として共有していきたい。